源氏物語はぜんぶで54帖。その第3帖「空蝉」の巻のざっくり現代語訳です。
おはなしのシーンは帚木の直後で、完全に続きです。
もくじ
光源氏、フラれて大ダメージを受けてしまう
光源氏「こんなに人に嫌われたのは初めて。この世界はなんて悲しい世界だ。もう生きていたくない」
子どもB「光源氏さま、ううっぼくも悲しい」
子どもBは姉と髪型や体が細いところが似ていた。姉と違ってこうして一緒に悲しんでくれている。子どもBはなんてかわいらしいのだろう。
光源氏「子どもB!!」
子どもB「光源氏さま。ぼく男の子だよう」
以降、子どもBはますます光源氏のことを敬愛していく。
この巻では、子どもBの忠誠心がMAXなんです。
――それから数日後
子どもBの姉「あー! もう光源氏から一切連絡ないじゃん。なんで光源氏のさそいをあんなふうに断っちゃったんだろ。」
子どもBの姉もなぜか後悔していた。
子どもBの姉「光源氏が私のことを好き好き言ってて、私は『ふふーん、どうしよっかなー』ってくらいのテンションがいいんだけど、それ続けてると光源氏がうちに泊まりにくるから、やっぱりもうやめたがいいよね」
この恋愛はもう終わりにしたほうが良いと答えを出しながらも、なんかやっぱりそれもいやだなーと思う子どもBの姉であった。
――数日後、光源氏の家
光源氏「子どもBの姉にひどい仕打ちを受けた。なのに俺はまだ子どもBの姉のことが好きだ。それが悔しいよ。自分の心がどうにもならない。子どもBよ、もう一度、おまえの姉に会わせてくれ」
子どもB「光源氏さま!! 光源氏さまがぼくを頼りにしてくれている。光源氏さまうおおおお!! ぼくにまかせてください。いいこと思いつきました。」
子どもBは中河の家の主人が出張で長期不在になるタイミングで、もういちど光源氏を家に引き入れることにした。
光源氏、子どもBの姉(やや不美人)に三顧の礼を尽くしてしまう
子どもB「光源氏さまが来たら、姉ちゃんはすぐに隠れてしまうから、見つからないように忍び込みましょう」
光源氏「まるでシノビ! 忍びの所業」
――日も暮れたころ
家はかなり広い。子どもBは南の入口から「うおおお! ただいま」と騒ぎ立てて家に入った。見張りの宿直が番をしていたが、子どもBにとっては自分の家だし、宿直の人からは「なんだ子どもか」的にスルーされた。
子どもBが南の入口で注目を集めている隙に、光源氏は東の入口からこっそり忍び込んだ。見事な連携プレイである。
門を潜り抜けた光源氏には、母屋で二人の女たちが碁を打って遊んでいるのが見えた。
光源氏「二人のうち一人は後ろ向きでよくわからん。でもたぶん子どもBの姉かな? もう一人はこちら向きでよく見える。けっこう可愛いけど着物をだるんだるんに着ていてリラックスしすぎやわ」
覗かれているとも知らず、碁に熱中する女たち。
着物だるんだるん女「くっ……負けた。点数かぞえよ、ええと」
光源氏「子どもBの姉の気のおけない不美人感もいいけど、着物だるんだるん女の今風で若くて軽そうな感じもいいなあ」
その日は着物だるんだるん女が遊びに来ていたわけでおじゃる。これは想定外の出来事でおじゃった。さらに着物だるんだるん女は「今日泊まる」と言い出すのでおじゃる。これも光源氏たちにとっては想定外でおじゃった。そもそもこの計画は子どもBの発案でおじゃるから、子どもの考えることだからという態で、こうした不備が多いわけでおじゃる。
女たちの油断した姿をこっそりうかがうのは楽しかった。女たちは光源氏の前ではだらしない恰好を見せないので、普段は知ることのできない秘密をのぞき見ることができた。
やがて子どもBがやって来たので、光源氏はのぞき見していたことを隠すために、長く待ちくたびれたフリをした。
子どもB「待たせてゴメンナサイ。姉ちゃんたちが寝たら部屋に入れますよ。ボクは先に行って様子を見ます」
そう言うと子どもBは姉ちゃんたちの部屋へ行き、蒲団を敷いて寝たフリをはじめた。
軒端荻(のきばのおぎ) ◆若く純心な美しさの悲劇◆
光源氏は子どもBの姉が寝静まった部屋へ入っていった。
子どもBの姉「はー、光源氏から連絡がない。寂しい。いや、それでいいんだ。あたしは人妻なんだから! でも、ああ、もう悩みが多くて寝れんわ。って、この音、このにおい、光源氏じゃん! 光源氏が来てるじゃん!?」
着物だるんだるん女(名前:軒端荻)「スヤァ……」
灯りは消したが寝つけずにいた子どもBの姉は光源氏が部屋に入ってきたことを察知し、パジャマのままそっと部屋からすべるように抜け出して逃げ去った。部屋には若くて健康な着物だるんだるん女が寝ている。
光源氏「ガサガサ。あれ? 子どもBの姉って、もっとやせていたような」
完全に真っ暗な状態だったため、光源氏は相手を間違えてしまうのだった。
着物だるんだるん女「スヤァ……ん、おはよう。あれ? 誰かいる。そっかー。光源氏かー。ま、ちょっと興味あったし」
光源氏の本心(やべえ間違えた。蒲団に一緒に入った状態で間違えましたすみませんって言いづらいな)
光源氏「秘密でキミに会いに来たんだ。秘密こそが愛を燃え上がらせるものだと信じてね。キミと俺の仲を世間は許さないだろう。キミの家族も俺たちが結ばれることを反対するだろう。だから俺たちの愛は、二人だけの秘密だ」
光源氏の本心(言うなよ! ゼッタイ子どもBの姉に言うなよ!)
着物だるんだるん女「おっけい秘密にするよ! ラブラブしよう」
ラブラブな時間を過ごした光源氏は子どもBの姉が部屋に残したままの着物を持って帰ることにした。
ところが屋敷を出る前にお世話係のオバサンに見つかってしまう。
お世話係のオバサン「なんですか、騒々しい」
子どもB「ぼくです。すんません、ちょっとでかけます」
お世話係のオバサン「坊ちゃんの隣にいる人は誰です?」
子どもB「光源氏さまだけど、そんなこと言えないよな。この人は、えっと、そうだ! お世話係のオバサンその2です」
お世話係のオバサン「はえー、お世話係のオバサンその2って、背が高いですねえ」
今度は真っ暗なことが幸いした。こうして、光源氏は子どもBの助けで屋敷を脱出し、おうちに帰った。子どもBの姉が脱いだ着物というお土産もゲットした。
空蝉(うつせみ) ◆脱いだ着物の中身がなつかしい◆
――光源氏の家
光源氏「子どもB、おまえの姉ちゃんクソだわ。だからおまえもクソだわ」
子どもB「光源氏さま、うわああん。ぼくまで嫌わないで」
光源氏「だが俺は、子どもBの姉の脱いだ着物を持ち帰ったのだ。どうすると思うかね? この着物と一緒に眠るのだよ」
子どもB「うわあ……」
※ここに来て表記変更:以後、子どもBの姉は空蝉(うつせみ)という名前で書きます。子どもBは「空蝉の弟」と書きます。
空蝉とはセミのヌケガラのことでおじゃる。セミがヌケガラを残して飛び去っていくのは、着物を残して逃げ去った女とそっくりというわけでおじゃる。
――翌日、空蝉の家
空蝉の弟「た、ただいまぁ。ドキドキ」
空蝉「ムキキー! 光源氏を家に入れたのおまえやろ!? たいがいにせえよ」
空蝉の弟「姉ちゃんゴメン。そして光源氏さまからお手紙だよ」
手紙「セミのヌケガラもいいけど、俺はこのヌケガラの中身が懐かしいなあグフフ」
――いっぽうそのころ、着物だるんだるん女は
着物だるんだるん女「光源氏から連絡がない。ヒミツの恋だもんね。でも連絡くらいは早くしてきてほしい。そういえば空蝉の弟くんって光源氏の子分だよね。空蝉の弟くんに光源氏のことを聞いてみよっかな」
空蝉の弟「光源氏さまには嫌われるし、姉ちゃんには怒られるし、着物だるんだるん女はなんか言ってきそうだし、もう散々だよ!」
こうして空蝉の弟の「いいこと思いついた」計画は、誰も幸せにならずに騒動を終えるのだった。